熱中症にならないように水分補給を!
ということで水分を補給する前に、
「汗」について考えてみることにします。
# あくまでも飲食としての管理栄養士視点でお話していきます。
# 医学的な要素を含みますが
# 正確さよりも判りやすさを優先しますので
# 予めご了承の上、お読みください。
■汗をかくのはなぜ?
汗は汗腺からでることは知っている人も多いはず。
汗腺は全身にあります。
しかし
汗腺の密集度が違うため
顔の周りや脇、手、上半身や膝の裏、足の裏などは
特に汗がでます。
汗が出るのは温度を下げるため。
高くなりすぎた体温を抑えるために汗を出します。
汗は身体の外、皮膚に出てきます。
すると汗は空気に触れて次第に蒸発します。
この空気中に拡散して蒸発する時に
皮膚から熱を奪って体温を下げるのです。
気化熱です。
全身が濡れたままにしておくと
そのうち寒くなるのはこのためです。
***ポイント***
湿度が高いと
汗をかいても蒸発しにくいため
体温を下げにくくなります。
雨の日に洗濯物が乾かないのと同じです。
特に湿度75%を超えるような多湿の場所は危険です。
逆に乾燥した場所では
気温が高くても汗は蒸発するので
体温は下がりやすくなります。
だから熱中症は
気温だけでなく「湿度にも注意」が必要なのです。
■汗のもとはなに?
汗の99%は「水」です。
ではその水は身体のどこからきているのでしょう。
答えは主に「血液」です。
血液中の水分が大量の汗となります。
では大量の水分を失った血液はどうなるのでしょう。
その分、濃度が高くなっていきます。
なにが濃くなっていくのかというと主に「塩分濃度」です。
医学的に言うと
「血中ナトリウム濃度」が上昇し
高張性脱水(こうちょうせいだっすい)状態と言います。
***ポイント***
汗はしょっぱいから塩分も一緒に出てるのでは?
その通り。
水分だけでなく塩分も汗として一緒に失われます。
でも汗として失われる塩分量は全体の約0.5%程度です。
ですから大量の汗をかいた時、
一番最初にカラダから失われるのは「水分」です。
■血液の濃度が高くなるとどうなるの?
濃度が高まった血液は血管の中を流れにくくなります。
サラサラではなくドロドロになっていくイメージです。
すると細くて細かい血管を通りにくくなり、
詰まってしまうこともあります。
詰まってしまうとその先の細胞に
必要な酸素や水分、栄養などを運んだり
不必要な二酸化炭素や老廃物を運んだりができなくなります。
すると症状となって現れてきます。
***ポイント***
血液の水分が不足してしまうと塊となる場合があります、
それが血栓です。
血栓は血管を詰まらせる大きな原因となります。
それがカラダのどこで起きたかによって名前が変わります。
(原因は他にもありますが)
脳梗塞は脳の血管で起きた場合の病名です。
**ポイント**
どんどん塩分濃度が高まるかというとそうではありません。
体内の塩分が濃くも薄くもならないように
身体は調整しているのです。
最初、汗には0.5%程度の塩分を含んでいますが、
汗をかきつづけるとその濃度を抑えます。
次第にしょっぱくない汗になっていくのです。
身体は体内の塩分量に応じて
水分量を保持するようになっているのです。
塩っ気の強いものを食べると喉が渇くのは
身体が塩分と水分を調整しているためです。
■どれくらいの水分を使ってるの?
# 性別、体質、体格、年齢、生活環境などにより
# 大きく変化するため
# はっきり数値を挙げることはできませんが、一例として。
一般的に
私たちの身体の50〜60%が水だと言われています、
特に脳や臓器などは80%が水分です。
そして1日に2400mLの水が必要と言われています。
内訳は
①尿として・・・・・・・・・・・・約1500mL
②便として・・・・・・・・・・・・約100mL
③息(呼吸)として・・・・・・・・約300mL
④汗として・・・・・・・・・・・・約500mL
合計= 約2400mL となります。
逆に言えば2.4L/日水分を補給しないと不足となります。
『え?!そんなに!お水飲んでない!』と思うかも知れません。
大丈夫、しっかり、そして知らないうちに水分補給はしています。
①飲料水として・・・・・・・・・・・約1000mL
②食事として・・・・・・・・・・・・約1100mL
③体内で栄養がエネルギーになる時に出る
代謝水として・・・・・・・・・・・約300mL
合計= 約2400mL となります。
意外と食事に含まれている水分が多いのに驚きませんか。
食事を抜くと栄養だけでなく水分も不足してしまうのです。
しかしこれは 安静時の話。
例えば
- 夏の炎天下の中体重70kgの人が10分間歩いくと約100mLの汗をかく
- 30度近い夏の日に体重65kgの人が屋内にいても1日に3Lの汗をかく
- 高温多湿の場所で8時間働いた人は12Lの汗をかく
と言われていますので必要な水の量は常に変化していきます。
***ポイント***
少し詳しく話すと、
身体を動かすと体温が上がります。
暑い日射しの照りつける中10分歩くと体温が1度上がる程です。
そのままでは
体内の温度があがってしまうので汗を出して熱を逃がします。
水の気化熱は1mL=0.58kcalなので、
100mLの汗で58kcalの熱が逃がすことができます。
人の身体の熱の上がり方=比熱(ひねつ)は
約0.83となっているので
体重70kg×比熱係数0.83=約58kcalとなり
運動によって上がる熱量と
発汗によって失われる熱量が
ほぼつり合っているのです。
■水を常に飲めばいいの?
1日で2.4L、夏の暑い日などは
3Lを超える水分が身体から失われていきます。
約2.4Lは普通に補給できているとして、
夏場のように大量の汗をかいた時は
不足した600mL分余計に飲めばいいのでしょうか。
水分についてはその通りです。
但し、
今飲んだ水が身体の中に取り込まれるまで
20〜30分程度の時間がかかります。
喉が渇いた時、
飲みものを飲むと潤った気になりますが、
身体はまだ乾いているのです。
**ポイント**
『こまめな水分補給を』
と呼びかけているのはこのタイムラグがあるためなのです。
喉に渇きを感じた時は、
思った以上に身体は乾いているのです。
■水を補給するだけでいいの?
塩分について考えてみます。
汗の約0.5%が塩分とすると100mLの汗で0.5g。
1L(100mL)で5gの塩分が失われることになります。
厚生労働省の
「国民健康・栄養調査報告」
「日本人の食事摂取基準」
(平成27年)
によると、
20歳以上の日本人は
平均で10.0g/日(男性11.0g/日 女性9.2g/日)
の塩を摂っているという調査結果があります。
しかし
日本高血圧学会では高血圧予防のために
1日6g未満
が望ましいとしています。
厚生労働省では1日に摂る塩の目標量を
12歳以上の男性 8.0g/日
10歳以上の女性 7.0g/日
未満が望ましい(平成29年4月)としています。
つまり
元々塩分を多く摂り過ぎてるため
日常生活を普通に過ごす上で
敢えて塩分を補給する必要はない、と言えます。
但し!!!
大量の汗が出た場合、
例えば
1L以上の汗をかくような状態を1時間続けた
などの場合は塩分補給は必要です。
■スポーツドリンクは?
多くのスポーツドリンクには
0.1%〜0.2%の塩分が含まれています。
これは
500mLのペットボトルで
0.5g〜1.0g含んでいることになります。
普通に汗をかいただけでは多過ぎる塩分量です。
また意外と糖質を多く含んでいるので
あまりオススメはしません。
しかし
大量の汗をかいている時、
例えば
「スポーツ」のように激しい運動をしている時、
水分、塩分、糖分を補給し
疲労回復するためには適していると言えます。
文字通り「スポーツをしている時用のドリンク」です。
**ポイント**
スポーツドリンクと言っても
成分が製品によって大きく違いますので
内容をよく確かめることが大事です。
■高血圧の人は?
血圧が高い場合、塩分を控えるように指導します。
では血圧が高い人の塩分補給はどうしたらよいのでしょう。
日本高血圧学会では、
汗をかく夏場でも塩分を制限する事が望まれる
としています。
ただ明らかに大量の汗をかいたり、
体調が悪いなどの症状がある場合は
塩分を補給することも必要です。
■水分が失われるとどんな症状がでるの?
失われた水分量によって症状が変わってきます。
主な症状
1% 大量の汗、喉の渇き
2% 強い渇き、めまい、吐き気、食欲減退、尿が減る
3% 汗が出なくなる
4% 脱力感、動きが鈍くなる、疲労感、感覚が鈍くなる
6% 手足のふるえ、ふらつき、頭痛、体温上昇、脈拍・呼吸上昇
8% 幻覚、呼吸困難、めまい、言語不明瞭、チアノーゼ
10%〜12%
筋肉のけいれん、失神、腎機能不全
15%〜17%
皮膚がしなびる、飲む込み困難、目の前が暗くなる、
目がくぼむ、聞こえなくなる、皮膚の感覚が鈍る
18% 皮膚がひび割れる、尿がつくられなくなる
20%〜生命の危機、死亡
■汗の量って。
1Lの汗って正直イメージが浮かばないかも知れません。
参考までにこんなサイトがあります↓
座る(約4時間/約23度)・・・・・・・約200mL
通勤(約1時間/約27度)・・・・・・・約200mL
入浴(7〜10分/約43度)・・・・・・・約400mL
睡眠(約8時間/約29度)・・・・・・・約500mL
サッカー(約1.5時間/約26度)・・・・約200mL
ゴルフ1R(4.7時間/23-32度)・・・・1075g
剣道(約1時間/約30.4度)・・・・・・2700g
運動した場合はかなり汗の量が増えます。
ただ座ってるだけでも水分が減っていくことに注目です。
■水分補給のタイミング
就寝時:
寝ている間は補給ができないので
寝る前に水分補給をしておきましょう。
入浴前後:
お風呂に入る前の水分補給は大事です。
飲酒後:
アルコールを分解するためには
身体の中で大量の水が必要になります。
またビールを10本飲むと利尿作用により
11本分の水分が出ていきます。
喉の渇きをビールでは潤しても
身体の渇きは潤せないので注意です。
運動の前後:
運動の激しさや運動時間にもよりますが
始める前、運動中、終わった時にそれぞれ
適量の水分を補給しましょう。
高温:
15分〜20分に
1回200〜250mLを
2〜4回に分けて摂りましょう。
■ほかに失う栄養素は?
汗の99%は水ですが残りの1%は「ミネラル」です。
塩=ナトリウムもミネラルに分類されます。
塩分と同じで大量の汗をかいた時のみ不足する場合があります。
●ナトリウム
不足すると)めまい、ふらつき、食欲減退、脱力感、筋肉異常、精神異常、循環不全
●カリウム
不足すると)脱力感、食欲不振、筋肉異常、腸閉塞症、反射の低下、不整脈
●鉄
不足すると)頭痛、めまい、立ちくらみ、肩こり、息切れ、動悸
などの症状の原因となります。
**ポイント**
ナトリウム=塩は普通に食事をしていれば充分に摂れます。
カリウムは主に「野菜」に多く含まれています。
鉄はバジル、こんにゃく、青のり、鮎、ひじき、きくらげ、カレー粉
などに多く含まれています。
■水分補給に適した飲みものは?
ずばり「水」です。
本当にカロリーを全くない唯一の飲食できるものです。
珈琲、紅茶:
カフェインを含んでいる珈琲や紅茶は、
利尿作用があり尿の量が増えて水分不足になりやすくなります。
アルコール:
体内でアルコールを分解する時に大量の水が必要になります。
飲料ですが体内の水分を使ってしまうので
水分不足になりますので注意してください。
■まとめ
・普通に汗をかいた程度なら水分のみ補給。
・大量に汗が出た場合は水分と一緒に塩分も。
・激しい運動をしたら水分+塩分に加えて鉄分の補給も。
・喉が渇いたと思う前に水分補給を。
・飲んだ水がカラダを潤すまで20〜30分のタイムラグ。
・普段から意識して水分補給を心がける。
・補給するなら「水」。
長い説明になってしまいました。
ただ何故「水分補給が大事」なのかを伝えたいと思い、
今回書いてみました。
感想や
わかりにくいなどご意見、ご要望などは
メールにてお送り頂けると幸いです。
★わん!ポイント★
水を飲む。
すると本当にカラダは「潤い」ます。
血液もサラサラ流れ、
酸素や栄養を全身の細胞へスムーズに届けてくれるだけでなく、
また、脳梗塞などの予防にもなります。
特に糖尿病などの生活習慣病のある人にとってはとても大事です。
水を飲む、ぜひ習慣にしてもらえたらうれしいです★
汗は心の涙、ではなく、
涙は心の汗、が正しいようです、ね。
ー適材適食ー
小園亜由美(こぞのあゆみ)|管理栄養士・野菜ソムリエ上級プロ・健康運動指導士
*1:文中の表現は全ての人が対象ではない場合があります。現在治療中の方は必ず担当医や管理栄養士の指示に従ってください。食事療法は治療です。ひとりひとりの身体の状態に合わせた適切でオーダーメイドなカウンセリングが必要です。充分に注意してください。