糖尿病があると、がんになりやすいという報告があります。
2013年5月、日本糖尿病学会と日本癌学会の合同委員会から、糖尿病の方は糖尿病がない方よりもがんを発症する危険性(=がん発症リスク)が高いという報告がなされました。
糖尿病でない方のがん発症リスクを1とした場合、糖尿病の方は、
- 肝臓がん 1.97倍
- すい臓がん 1.85倍
- 結腸がん 1.40倍
がん発症リスクが高まることがわかりました。
また高血糖や肥満も発がんの要因になることも判ってきました。
糖尿病があると、なぜがん発症リスクが上昇するのでしょうか。
まだ明確な答えは出ていませんが、そのメカニズムはインスリン抵抗性とそれに伴う高インスリン血症、高血糖、炎症などが考えられています。
インスリン抵抗性とは、インスリンが分泌されても血液中のインスリン濃度に見合った血糖降下が得られず、血糖値が下がりにくい状態(インスリンの効きが悪い、もしくはインスリン感受性が低い状態)を言います。遺伝的な要因と肥満、運動不足やストレスなどの環境要因が組み合わさってインスリン抵抗性が起こると言われています。
インスリンの効果が減弱した状態が続くと、すい臓は血糖値を下げようとするため、インスリンをたくさん出そうとします。
すると、その結果として、血液中のインスリン濃度が上昇し、高インスリン血症になります。このインスリン抵抗性と高インスリン血症が、がんの発症に大きく影響をおよぼしていると考えられています。
また、高血糖状態は細胞内の酸化ストレス(活性酸素などが増えている状態)を亢進させます。この酸化ストレスはDNAにダメージを与えることがわかっています。
2型糖尿病では肥満を伴うことも少なくありません。肥満によって蓄えられた脂肪組織では慢性的な炎症が起こっています。これもがん発症の要因になります。がんを抑えることに働くアディポネクチン※の血中濃度が低いことなども、がんの発症に関与している可能性が考えられています。
※アディポネクチン:脂肪細胞から分泌されるホルモンのひとつ
糖尿病とがんの関係についてはこれまで判明していませんでしたが、2020年5月8日、時事通信社によると、
糖尿病や肥満からがんになる仕組みがショウジョウバエの遺伝子を詳しく調べて分かったと、京都大の井垣達吏教授らの研究グループが発表した。
インスリンが増加して「細胞競合」という現象が起きなくなるためで、がんを予防する薬の開発につながる可能性があるという。論文が8日、米国の学術誌の電子版に掲載される。
細胞競合とは、がんの元になるような異常な細胞が正常な細胞によって排除される現象。研究グループが糖尿病などでインスリンが異常に増える「高インスリン血症」になったハエの目の組織を調べたところ、異常な細胞がたんぱく質を合成する能力が高まっていた。
その結果、正常な細胞による細胞競合が起きず、異常な細胞はがん化した。血糖値を下げる糖尿病治療薬メトホルミンを与えると、細胞競合が再び起き、がん化しなくなった。
つまり、
糖尿病がある
↓
インスリン分泌が増える=高インスリン血症
↓
異常な細胞がタンパク質をより多く合成
↓
正常な細胞が異常な細胞を排除できない
↓
異常な細胞ががん化
という仕組みが判ったそうです。
それだけではなく、糖尿病治療薬であるメトホルミンを投与すると細胞競合が再び起こりがん化が止まったそうです!
★ちゅー!ポイント★
糖尿病をしっかり治療し続けること。それががんを防ぐことにもなるんです。
ー 適 材 適 食 ーてきざいてきしょく
小園 亜由美 (こぞのあゆみ)管理栄養士・野菜ソムリエ上級プロ・健康運動指導士・日本化粧品検定1級
*1:文中の表現は全ての人が対象ではない場合があります。現在治療中の方は必ず担当医や管理栄養士の指示に従ってください。食事療法は医療行為です。ひとりひとりの身体の状態に合わせた適切でオーダーメイドなカウンセリングが必要です。充分に注意してください。