今週のお題「納豆」
ダイズってどんなイメージがありますか?
健康?身体にいい?和食? そうですよね。でも、ちょっと驚きのニュースが飛び込んできました。
大豆食品で膵臓がんのリスクが上昇か――JPHC研究
大豆食品は、心血管疾患や一部のがんのリスクを下げることが報告されているが、膵臓がんに関しては別かもしれない。国立がん研究センターなどの多目的コホート(JPHC)研究グループの研究から、大豆食品の中でも非発酵性の食品は、膵臓がんのリスクを高める可能性のあることが報告された。詳細は「Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention」6月号に掲載された。
ーーーえ?!ダイズを食べるとがんになるの???
ひとつひとつ観ていきましょう。まずはこの研究、多目的コホート(JPHC)研究そのものについてお話しします。
JPHCとは正確にはJPHC Studyと言って、
「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究」(主任研究者 津金昌一郎 国立がん研究センター社会と健康研究センター長)において全国11保健所と国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、大学、研究機関、医療機関などとの共同研究として行われています。パンフレットをPDF形式にて用意しましたのでご利用ください。
なお、当研究は平成21年度までは厚生労働省がん研究助成金による指定研究班として実施されていました。平成22年度以降は独立行政法人国立がん研究センターによって実施されています。
ということ。要するに全国の保健所、国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、大学、研究機関、医療機関などが共同で研究を行っています。では何を研究しているかと言うと、
日本各地にお住まいの約10万人の方々から、その生活習慣についての情報を集め、10年以上の長期にわたって疾病の発症に関する追跡を行うことによって、どの様な生活習慣が疾病の発症に関連しているのかを明らかにすることを目的として、本研究が行われています。
というように、私たち国民が日常生活をどのように送り、その生活の中でどのように病気が発生していくのかを長期間追い続けデータ化して、生活習慣から発生する病気をなんとかしよう、というような研究を行っているのです。
大変有名でとても貴重なデータなので、以前にもこのブログで紹介した事があります。
コーホート 【cohort】
〔群れ・集団の意〕
特定の期間に出生や結婚のような出来事を経験した集団。人口学の用語。コホート。
つまりある条件を満たす人たちのこと、です。今回の調査では、
- 1995年と1998年
- 全国10箇所
- がんになっていない人
- 食事アンケートに答えた45歳から74歳までの9万185人
がコホート(=集団)です。それを2013年まで追跡調査したそうです。
ではどんなことを調査して、どんな集計結果がでたのでしょう。オリジナルのデータはこちらです↓
詳しく観ていきたいと思います。
膵がんは予後が良くないがんなので、予防に関する研究結果の蓄積が望まれています。
大豆食品には、たんぱく質、イソフラボン、レクチン等の多くの成分が含まれ、これまでにも循環器疾患や、一部のがんにおいてリスクが低下する可能性が報告されてきました。しかし、膵がん罹患との関連については報告も少なく、よくわかっていませんでした。
そこで、私たちは、多目的コホート研究において、大豆食品摂取量と膵がん罹患との関連について検討しました。
大豆食品の摂取量と膵がん罹患の関連 | 現在までの成果 | 多目的コホート研究 | 国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ
がんの中でも膵がんは病気になってしまうとその後があまりいいとは言えない病気です。そこで、身体によいとされている大豆食品に含まれるタンパク質やイソフラボン、レクチンなどの成分がよい結果をもたらしてくれるのではないかという事で調査した、ということのようです。
食事調査アンケート調査の結果を用いて、
・総大豆食品
・発酵性大豆食品
・非発酵性大豆食品
・各大豆食品(納豆、味噌、豆腐類)
の摂取量を計算し、等分に4つのグループに分け、最も少ないグループと比較したその他のグループの、その後平均約17年間の膵がん罹患リスクを調べました。分析にあたって、
・性別
・年齢
・地域
・肥満度
・喫煙
・飲酒
・身体活動
・糖尿病(または服薬)の有無
・膵がん家族歴
・コーヒー
・魚類
・肉類
・果物類
・野菜類
・総エネルギー摂取量
で統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。
大豆食品の摂取量と膵がん罹患の関連 | 現在までの成果 | 多目的コホート研究 | 国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ
大豆に関する情報だけを抜き出し、可能な限り正確に大豆の健康に対する影響を集計した、とのことです。その結果がこちら↓
大豆食品の摂取量と膵がん罹患の関連 | 現在までの成果 | 多目的コホート研究 | 国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ
まずこの図ですが、左の縦軸にあるハザードとは
ハザード(hazard)
危険の原因・危険物・障害物などを意味する英語。潜在的危険性。日本ではいろいろな外来語・和製英語として使用される。英語の“hazard”には「偶然」という意味あいもあるが、日本語ではもっぱら「危険」という意味あいで用いられる。
危険の原因、この図の場合膵がんになる危険度を表しています。横軸は摂取量、どれだけ大豆食品を食べているかを表しています。
- 黄色いグラフは 総大豆食品 =あらゆる大豆を使った全ての大豆食品
- 赤色のグラフは 発酵大豆食品 =納豆など発酵した大豆食品
- 青色のグラフは 非発酵大豆食品=発酵したものを除いた大豆食品
をそれぞれ食べた場合を表しています。このグラフによると、発酵したもの以外、大豆食品を多く食べることで膵がんになる可能性が高まっていることが判ります。
次のグラフは具体的な大豆食品で比較しています。
大豆食品の摂取量と膵がん罹患の関連 | 現在までの成果 | 多目的コホート研究 | 国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ
このグラフによると、赤色のグラフ=納豆や味噌と言った発酵したものを食べた場合は特に目立った特徴は観られませんが、青色のグラフ=豆腐類は食べる量が増えれば増えるほど膵がんになる可能性が高まっているのが判ります。
この結果に対し、
今回の研究では、総大豆食品摂取量が多いと膵がん罹患リスクが高いという関連がみられましたが、発酵性大豆食品摂取については膵がん罹患との関連はみられませんでした。
これまでの欧米の疫学研究では、インゲン豆、レンズ豆、エンドウ豆、大豆などを含むマメ科の植物の摂取は膵がんリスク低下との関連が示唆されています。
今回の研究では、豆類の種類の違いによる栄養成分の違い(インゲン豆、レンズ豆、エンドウ豆は大豆に比べて、炭水化物が多く、脂質が少ない、大豆はたんぱく質、脂質が多い)や、観察期間の違い(欧米の研究は6~8.3年であり、本研究は約17年と長い)などのため、先行研究とは異なる結果になったと考えられました。
総大豆食品摂取量が多いと膵がん罹患リスクが高い理由は、よくわかっていませんが、動物実験では非加熱大豆飼料を与えられた動物では、下痢などのほか、膵臓の腫れがみられたとの報告や、大豆に含まれるトリプシンインヒビターなどの消化酵素阻害成分の消化酵素や消化管ホルモンへの影響などが考察されます。
大豆食品の摂取量と膵がん罹患の関連 | 現在までの成果 | 多目的コホート研究 | 国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ
と締めています。
では、ここでもう1つのデータを観て頂きたいと思います。こちらはJ-STAGEに掲載されている論文です。
J-STAGE(ジェイ・ステージ)
文部科学省所管の独立行政法人科学技術振興機構(JST)が運営する電子ジャーナルの無料公開システム。1998年にプロジェクトがスタートした。正式名称は科学技術情報発信・流通総合システム。J-STAGEは、電子ジャーナルの公開ノウハウを持たない学協会に対し、インターネット上で学術雑誌を公開するシステムとノウハウを、無料で提供している。情報の迅速な流通と国際情報発信力の強化、オープンアクセスの推進を目的とする。
つまりこちらも国レベルで公開している情報です。対象の論文はこちら(但しリンク先はPDF形式のファイルになっています)↓
発酵食品としての大豆の健康機能性
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/95/6/95_6_386/_pdf/-char/ja
他にもダイズに関する情報はたくさんネットにあります。
さて、このレポートについてどう考えればよいのでしょうか。
発酵させてないダイズは膵がんになる可能性があるから食べない!と考えている人もいるかも知れません。でもすぐに決めてしまうのはもったいないです。次回は同じレポートの他の項目も観ていきたいと思います。
(つづく)↓
★ちゅー!ポイント★
正直に言えば私もこのレポートに驚きました。だからこそ、しっかり考えようと思ってブログを書いています。よかったら、結論を急いで出すのではなく一緒に考えてみませんか?
ー 適 材 適 食 ーてきざいてきしょく
小園 亜由美 (こぞのあゆみ)管理栄養士・野菜ソムリエ上級プロ・健康運動指導士・日本化粧品検定1級
*1:文中の表現は全ての人が対象ではない場合があります。現在治療中の方は必ず担当医や管理栄養士の指示に従ってください。食事療法は医療行為です。ひとりひとりの身体の状態に合わせた適切でオーダーメイドなカウンセリングが必要です。充分に注意してください。