2021年3月29日月曜日18:30~20:00、岩見沢糖尿病WEB講演会が開催され講演させて頂きました。
姪浜院長下野は『チームで実践糖尿病療養指導』について、私は『適材適食 CORONA ImpactからNew Normalへ』をテーマに講演させて頂きました。
今回本当に多くの質問を頂きました!ここでは私なりの回答と共に捕捉も含めて掲載したいと思います。
間食やめられない人にどう対応したらよいか?
患者にはやめられない理由をきちんと聴くようにしています。
「間食をやめましょう!」と伝えただけで解決しないのは、それがアドバイスとして不十分だからではないでしょうか。「なぜやめられないのか」。何よりもまず患者から理由を聞き取ることが大切です。理由の中には患者のキモチや状況が必ず含まれています。それを十分理解した上で、提案するようにしています。
例えば
間食が家族団らんのコミュニケーションツールとなっているような場合があります。みんなでテレビを観ながらお菓子を囲んでお茶をする、そんな場合「間食をやめよう!」と患者本人は思っていても、家族にそれを言い出しにくいはずです。
理由が判れば
- お菓子ではなく果物に
- お菓子ならお皿に少量を小分けに出す
などの家族団らんを守りつつ間食を控えられるような提案もできます。
例えば
仕事や勉強、家事などの中で溜まったストレスを解消のために、自分へのご褒美として好きなものを食べている場合もあります。
理由が判れば
- 食べる以外にストレスが発散できるようなこと
を一緒に見つけるようなアドバイスもできます。
単に「間食をやめましょう!」と言うのではなく、理由を知り、十分考慮した上で、実現しやすいアドバイスをするように心がけています。これは同時にひとつひとつ個別に丁寧に対応することを意味しています。
新型コロナウイルス感染症が流行する環境で食事療法で気を付けていることは?
当院患者を対象としたアンケート調査結果で紹介した通り、買い物の回数を控えている患者には、比較的長持ちする食材の提案や保存の効く缶詰などを紹介している時期もありました。
現在は特に外出自粛している状況ではないので、血糖コントロールを良好に保つためにも、サルコペニア予防のためにも、基本的には「バランスの良い食事」をとれるようにアドバイスを行っています。
夕食にたくさん食べる傾向がある人にどう対応するべきか?
基本的には1日3食均等に食べるのが理想的と言われていますが、日本の生活スタイルでは夕食が豪華でボリューミーになる傾向があります。みなさんの中にもそんな食習慣を持っている人もいるかもしれません。
しかしその習慣はあなた自身が望んでやっていること、なのでしょうか。ほとんどの人が無意識・無自覚のうちにそのような食習慣・食べる配分になっている人も多いのではないでしょうか。
それは糖尿病のある人も一緒です。
ですから、1日3食を均等に食べるという理想の形を説明しつつ、患者の生活スタイルにどのようにしたら馴染むのかを食事カウンセリングの中で患者とよく話し合いながら、探していきます。
例えば
遅くまで働いているため夕食のタイミングが深夜近くになる、そんな生活パターンの人には、
理由が判っているので
夕方ごろ軽めの捕食を摂ることで、夕食の量を減らせる場合もあります。
例えば
本日担当した患者は『食べ過ぎたらいけない』と思い、昼食をサラダだけで軽く済ませているのですが、夕食はその反動でどんぶりごはん2膳食べる、ということを繰り返していました。夕食を食べ過ぎている事を本人は自覚しているため罪悪感もあり、翌朝、昼は控えめにして、でも夕食は大量に食べてしまう、という繰り返しでした。
理由が判っているので
昼食にもごはんとおかずをきちんと食べることで夕食の量を減らせることをアドバイスしました。本人も納得しチャレンジしてみることになっています。
ひとりひとり異なった理由があるので、その理由に併せること。つまり個々に最適化したアドバイスが必要です。
食べる順序は若年者と高齢者では指導が異なるのか?
一般的に血糖値を上げにくくするために、まずは食物繊維の多く含まれる野菜やキノコ、海藻、こんにゃくを先に食べて、魚や肉や卵や豆腐などのタンパク質をその次に、最後にご飯を食べるということが推奨されています。
しかし
高齢者の中に食が細く、野菜を先に食べていたらお腹いっぱいになってしまい、おかずまで食べられないという人も多く見受けられます。
そんな場合はタンパク質を先に食べるように勧めます。魚や肉や卵や豆腐などのタンパク質を食べると体内にインクレチンというホルモンが分泌され、胃の消化運動をゆっくりにしてくれて血糖上昇を抑えることにつながりますと伝えます。
そういった意味で
若年者と高齢者という区別の方法もありますが、若年者でも食が細く十分な栄養素が摂取できていない人には「タンパク質を先に食べる」ことを推奨しますし、高齢者でも食欲があり、食事量がかなり多い人には「野菜を先に食べる」ように勧めることもあります。
ひとりひとり年齢、性別、体格、行動量などの差があるので、それに併せること。つまり個々に最適化したアドバイスが必要だと考えています。
野菜はどうやって勧めるのがよいか?
厚生労働省が掲げる「21世紀における国民健康づくり運動 健康日本21」によると健康を維持するために必要な野菜の摂取目標量を、成人の場合「1日350g以上(緑黄色野菜120g以上、淡色野菜230g以上)」としています。
しかし、
糖尿病専門クリニックである当院の患者を対象とした調査でも野菜の摂取量は一日に必要な量に達していないことが判っています。目標の60%しか摂っていないことが判っています。
野菜は糖尿病をはじめとする生活習慣病の治療に有効であることはご存知の通りですが、不足しているのが実情です。
しかし、
野菜を食べる習慣のない患者に「栄養成分が良いから」「身体に良いから」と野菜を勧めても実際に食べてくれることは難しいのも事実です。
そこで、
患者自身が日頃食べている食事を聞き取り、食べ慣れた普段の献立の中で、野菜が増やせそうなものをピックアップして伝えます。今まで食べたことのないものをわざわざチョイスして勧めるよりも、馴染のある野菜の増量の方が患者としてもハードルは低く感じるはずです。
馴染みのない野菜を勧める場合のポイントは「旬」です。旬の野菜は栄養価が高く、市場に出回っているため入手しやすく、しかも美味しい。さらに数や量も整っているので安く手に入れることができます。そんな旬の野菜が何故いいのか。付加価値についてもしっかり伝えることは大事なことです。
『健康のために』『血糖値のために』という目的で野菜を食べましょうとアドバイスすることは間違っているわけではないです。しかし、患者自身が栄養やカラダに与える効果など野菜の実力を正しく知ることで、「食べなきゃいけない」ではなく、自らすすんで「思わず食べたくなってしまう」ようなカウンセリングしていくことが1番よいのではないかと私は考えています。
そのためにもひとりひとりの生活の様子はもちろんの事、性格や考え方などを知り、その人にマッチしたアドバイスが重要になると考えています。
他院で行われている「栄養指導」と貴院で行っている「食事カウンセリング」はかなり違う取り組みのように感じるが、どうやったらうまくいくのか?コツなどあれば教えて欲しい。
私は食事カウンセリングを行う上で、目の前の患者をよくするために必要なことは何か。上手く行ってないのなら障害になっているものは何かということを、私だけでなく患者と一緒に考えるようにしています。
私たち管理栄養士が栄養指導でできることは、患者のことをできるだけ理解し、日々の生活の中からできそうなことを探し出し提案することだけ、です。
どんなに素晴らしい提案、アイディア、アドバイスだとしても、それを実際に実行するのは患者自身です。
患者は生活があり生活だけでなく、小さなものから大きなものまで色々な夢・やりたいことがあります。それがどんなことであってもそれを実現するためには必ず「健康」でなければなりません。血糖値などの数値を下げることはとても大切です、でもそれだけ追うのではなく、重要なのは身体だけでなく心も健康であることではないでしょうか。
目標を設定する。それが達成できなかった。
先程「実行するのは患者自身」と言いました。しかし出来なかったのは本当に患者自身の問題だけでしょうか。そもそも目標が間違っていることは考えられないでしょうか。だとしたら、出来てない=ダメな患者と決めつけていいのでしょうか。実現できるステップを用意できなかった私たち管理栄養士の責任はないのでしょうか。
私も食事カウンセリングのすべてが毎回成功している訳ではありません、上手く行かなかったこともたくさんあります。そんな時は必ず、患者と一緒になって「次回こそはできること」を必死になって探します。それこそがその人に合った食事療法であり、栄養指導であり、食事カウンセリングだと私は考えています。
栄養指導は、教科書に載っていること以外で実は大事なことがあるのでは?
とあるフルーツが大好きな患者がいました。フルーツ好きは有名で当然まわりからもフルーツを頂くことも多かったそうです。でもフルーツの多くは賞味期限が短くダメになる前にとついついたくさんのフルーツを食べ過ぎることも多かったそうです。
そんな患者に大好きなフルーツを楽しんで欲しい、でも血糖値も下げたい。もともと私自身もフルーツが大好きなこともあり、何とかできないかとずっと考え続けました。
そこでフルーツを冷凍してみました。冷凍することで長い間保存することができる上、凍ったものを一度にたくさんは食べられない、つまり食べる量をコントロールすることができるのです。早速患者に提案、私のアイディアを患者は喜んで取り入れ、同時に食べる量も減らすことに成功しました。「冷凍フルーツ」は今では私の中では定番のアドバイスのひとつになっています。冷凍フルーツはただ単に好きなフルーツを冷凍庫に入れるだけですが、たとえばカロリー高めなアイスやケーキの代わりにもなります。
逆に患者から教わることもたくさんあります。
患者の中には色々と勉強したり、試行錯誤を何度も繰り返して、素晴らしい方法・アイディアを見つけ出す人もいます。素晴らしい方法・アイディアを教えてもらった時、患者本人に「いかに素晴らしいことか」をできる限り伝えます。そしてそのアイディアが他の患者にも役立つことも伝え、本人の了解を得た上で、他の患者にアイディアを広めていきます。
冷凍フルーツも患者発信のアイディアも概ね栄養学や病態を学んできたものとは違う、生活の中から生まれてくるものが多いです。
最近、糖尿病治療に携わる管理栄養士の仕事を栄養指導を文字通り「栄養について指導すること」だと考えている学生が多く見受けられます。管理栄養士になるために学校で学んだこと、教科書に載っていることは基礎。必ず覚えておかなければならない事が全て記されています。しかし臨床の現場で求められるのは、その基礎知識をどう応用していくか、ではないかと考えています。
以上です。
これはあくまでも私の意見であり、他にもたくさんの異なった意見があることを知っています。色々な意見が活発に行き交い、淘汰され、よりよいものになっていくことを私は望んでいます。
★モゥー!ポイント★
最後になりましたが、
吉村 治彦 先生(医療法人平安会よしむら糖尿病クリニック 院長)
そして
本日参加頂いた医療従事者のみなさま、
講演会のスタッフのみなさまに心から深く感謝申し上げます。ありがとうございました。
ー 適 材 適 食 ーてきざいてきしょく
小園 亜由美 (こぞのあゆみ)管理栄養士・野菜ソムリエ上級プロ・健康運動指導士・日本化粧品検定1級
*1:文中の表現は全ての人が対象ではない場合があります。現在治療中の方は必ず担当医や管理栄養士の指示に従ってください。食事療法は医療行為です。ひとりひとりの身体の状態に合わせた適切でオーダーメイドなカウンセリングが必要です。充分に注意してください。