今週のお題「私のデスク」
毎月季節の野菜を紹介するシリーズ★ その名も「旬の役菜」。
私は健康なカラダづくりに役立つ野菜を【役菜やくさい】と呼んでいます。季節ごとに旬を迎える野菜たちが持つ特徴的な栄養や成分を充分に引きだして美味しく楽しく頂きましょう。8月の役菜はモロヘイヤです。
モロヘイヤ
モロヘイヤの旬は6月〜9月です。
シマツナソ(縞綱麻; 学名: Corchorus olitorius)
アオイ科ツナソ属(コルコスル属)の一年生草本。別名をナガミツナソ、タイワンツナソ、ジュート。 近年は食材(葉菜)としても流通するようになり、モロヘイヤ(アラビア語: ملوخية, 文語アラビア語発音:mulūkhīyahないしはmulūkhīya, ムルーヒーヤ, 注:モロヘイヤはエジプト方言発音に由来)の名でよく知られるところとなっている。リンネの『植物の種』(1753年)で記載された植物の一つである。
モロヘイヤ、実は「シマツナソ」が正式?な名称なんだそうです。
モロヘイヤの名前の由来
「モロヘイヤ」ーーー変わった名前ですよね。一度聞いたら忘れられないインパクトがあります。モロヘイヤの名前の由来とは?
モロヘイヤの名前の由来
一説によるとエジプトの故事の中に王様が重い病気を治した野菜として記述が残っており、この野菜をアラビア語で王様を表わす「マリク」、その複数形「ムルク」から、さらに形容詞の「モロヘイヤ」になって「王様の野菜」を意味するとされている。
アラビア語が起源となっているそうです。
モロヘイヤの原産地
(飯森嘉助 著 『新健康野菜 モロヘイヤ』より)
モロヘイヤの原産地は「インド西部または、アフリカのコルドファン地方(現在のスーダン共和国の中央部)から熱帯アフリカにかけて」とされており、かなり広い地域で自生していたようです。
一方、バングラデシュ国農業原書では、モロヘイヤと同じアオイ科で、主に繊維の原料となるツナソ(ジュート)と、モロヘイヤの原産地が、分けて特定されています。日本熱帯農業学会の会員で熱帯農業を専門に研究されていた日高健一氏によると、この農業原書には、「ツナソの原産地はインドおよびマレーシアであり、モロヘイヤの原産地はアフリカである」と書かれているそうです。
東南アジアからインド、アフリカとかなり広い地域とされているようです。いずれにせよ、温暖というよりも比較的「暑い地域」を好むと言えそうです。
モロヘイヤの葉は特徴的
一見単なる葉っぱ?と思う人も多いと思いますが、モロヘイヤの葉をよく見ると
- ふちが細かいギザギザがある
- 葉の付け根=根元にヒゲがある
があって、特徴のある形をしています。
モロヘイヤは強い!
モロヘイヤは、葉物野菜の中では、極めて暑さに強い野菜です。病害虫にも比較的強く、初心者でも育てやすい野菜です。
モロヘイヤとは若葉
食材(モロヘイヤ)として
若葉をモロヘイヤ(英名: Jew's mallow)と称して食用とし、やわらかい若い葉を摘んで茹でてから利用するのが一般的である。
もちろんモロヘイヤはモロヘイヤなのですが、食用に限っては食べる部分が「若葉部分」なので、そこを「モロヘイヤ」と呼ぶ、ということです。
モロヘイヤが日本に入ってきたのは大学教授の思い出から
今や普通にスーパーで見かけるようになったモロヘイヤですが、日本に入ってきてから50年程度だとことです。
日本に入ってきたのは1980年代後半で、エジプトに留学していた大学教授の飯森嘉助らが、モロヘイヤスープの味を懐かしんで、種子を取り寄せて栽培したのが最初と言われており、のちに「全国モロヘイヤ普及協会」を設立し普及に努めた。
大学教授が「モロヘイヤ食べたいなー」という思いから始まったんですねー。意外なきっかけ、だと思いました。
モロヘイヤ禁止令!?
好き嫌いは別としてそこそこ有名となった「モロヘイヤ」ですが、「禁止令」が出たこともあるそうです!どういった経緯でどんな話なのでしょうか。
ファーティマ朝は、10世紀から12世紀まで、北アフリカを支配したイスラム王朝で、シーア派の王朝です。シーア派の人々は、シーア派初代の指導者であるアリー(600年頃〜661年)を敬愛しています。
このアリーの政敵とも言える人物が、スンニ派のウマイヤ朝を創設したカリフ、ムアーウィヤ(603年頃〜680年)です。このムアーウィヤの好物がモロヘイヤだったことを嫌悪して、ハーキムは領民がモロヘイヤを食べることを禁止したという説です。
この禁止令を出したハーキムを神格化して崇めるドゥルーズ派という宗派があるのですが、ドゥルーズ派の人々の中には、今でもモロヘイヤを食べない人がいるそうです。このことからも、モロヘイヤ禁止令は実際にあった史実だと思います。クレオパトラは、本当にモロヘイヤを食べていたのか? アラブの食文化研究家 小松あきさんと、古代エジプト研究者 橋本ゆきみさんのオンライン対談|モロヘイヤ効果研究所 モロラボ
なんと敵対する相手がモロヘイヤが大好きだから、ウチでは食べるの禁止って話とは、何だかとっても人間味のある話(違う)と思いました。
刻んだモロヘイヤの粘り気の正体
モロヘイヤの葉を細かく刻むと「粘り気」が出てきます。あの粘り気の正体はなんでしょうか?
刻んだりゆでたりするとツルムラサキやオクラ同様、ムチレージ(ムシレージ)による特有の粘りが出るのが特徴である。
ムチレージ
ほとんどすべての植物と一部の微生物が生成する厚い糊状物質である。これらの微生物には原生生物も含まれ、原生生物は粘液を運動に利用する。原生生物の運動方向は、粘液が分泌される方向と常に反対である。ムチレージは極性糖タンパク質であり、菌体外多糖である。植物のムチレージは、水分や食物の貯蔵、種子の発芽、膜を厚くするなどの役割を果たしている。サボテン(およびその他の多肉植物)と亜麻の種子は、特に粘液質の豊富な供給源である。
モロヘイヤの花言葉はなんと「体力回復」
ネバネバものは夏に向いているーーーなんて話がありますが、モロヘイヤの花言葉が面白いです。
モロヘイヤの花言葉は「体力回復」。
疲労回復やエネルギー産生と深く関連するビタミンB群が抜群に豊富なモロヘイヤらしい花言葉ですね。
モロヘイヤで病気が治った?
と、体力回復の花言葉を持つモロヘイヤは、その昔「病気が治る」とされていたという話があるそうです。
「病気で苦しんでいた、古代エジプトの王様がモロヘイヤを食べて治った」というエピソードです。
この話はどの王様の話なのでしょうか?実話と考えていいのでしょうか?小松さん:これは、ファーティマ朝第4代カリフ、ムイッズ(在位953年〜975年)の話です。医者に勧められて食べたモロヘイヤで、体調不良が回復したということで、いろいろな文献にでてくる話です。
ただ、これは10世紀後半の話であって古代エジプトの話ではありません。
古代エジプトとは、紀元前3000年頃に始まった第1王朝から紀元前30年にプトレマイオス朝が共和制ローマに滅ぼされるまでの期間を指します。
クレオパトラやクフ王のピラミッドなど古代エジプトの印象が強すぎて、「エジプト」という言葉から「古代エジプト」を連想してしまう人が多いのかもしれません。クレオパトラは、本当にモロヘイヤを食べていたのか? アラブの食文化研究家 小松あきさんと、古代エジプト研究者 橋本ゆきみさんのオンライン対談|モロヘイヤ効果研究所 モロラボ
色々な文献に「体調が回復した」と出てくるそうなので、昔の人もモロヘイヤの力を知っていて、借りていたのは本当なのかも知れません。
モロヘイヤがクレオパトラが愛した野菜って本当?
クレオパトラはモロヘイヤを食べていたのか、についてですが、何か、歴史的な資料のようなものはあるのでしょうか?
橋本さん:残念ながら、クレオパトラが生きた時代やそれより古い時代に古代エジプトでモロヘイヤを食用としていたことを示すテキストや図像などの明確な証拠は見つけられず、現時点では彼女が食べていたと断言するのは難しそうです。エジプトの強い日差しは栽培に向いていそうですし、スープは古代から焼かれていたパンにも合うと思うのですが … 。パンは古代エジプトから古代ギリシャ、ローマへと伝わったようですね。
橋本さん:はい。ただ、古代エジプトは地中海世界だけでなく、東方世界とも文化的、物質的な交流がありました。もしクレオパトラの時代にすでに現在のシリアなどに当たる小アジアでモロヘイヤの栽培、食用があったならば、美容家でもあった彼女は栄養価の高いこの野菜に興味を持ったかもしれませんね。なるほど。小松さんは、いかがですか?
小松さん:そうですね、私も、残念ながら、食べていなかったと思います。
壁画等に当時の食べ物や習慣などの描写が多く残っていますが、モロヘイヤ、またはモロヘイヤと思われるものが今のところ見つかっていない、というのが理由です。もちろん、当時の全てが壁画等に残されているわけではないはずですので、発見されていないからと言って、存在しなかったとは言い切れませんが。少なくとも「クレオパトラの好物だった」というのは、信憑性が薄いように感じます。クレオパトラは、本当にモロヘイヤを食べていたのか? アラブの食文化研究家 小松あきさんと、古代エジプト研究者 橋本ゆきみさんのオンライン対談|モロヘイヤ効果研究所 モロラボ
あの絶世の美女と言われるクレオパトラが食べたという記録は見つかってないとは言え、もしかすると食べていたかも知れませんし。そもそも「絶世の美女」が好んで食べていたというキャッチーなコピーは響きますよねー。
クレオパトラ7世フィロパトル(ギリシア語: Κλεοπάτρα Ζ' Φιλοπάτωρ、ラテン語: Cleopatra VII Philopator、紀元前69年 - 紀元前30年)
古代エジプトプトレマイオス朝ファラオ(女王)。
一般的に「クレオパトラ」と言えば彼女を指すことが多く、プトレマイオス朝の最後の女王で、ガイウス・ユリウス・カエサルやマルクス・アントニウスらとのロマンスで知られる。王朝自体がアレクサンドロス3世の部下プトレマイオス1世による支配から始まったため、クレオパトラもギリシア系である。
モロヘイヤの国内産地
そんなモロヘイヤですが、国内でも栽培されています。
暑い地域が原産のモロヘイヤなので、日本でも産地は暑い地域のみかと思いきや、南は沖縄から北は東北地方まで、幅広い地域で栽培されています。最も収穫量が多いのは群馬県。ダントツです。沖縄県も、ハウス栽培を使って通年で生産できる強みを生かし、2位となっています。
全国の収穫量(2018年) 1,266 t
(政府統計ポータルサイト e-Statより)1位 群馬県・・・・・・・357 t
2位 沖縄県・・・・・・・168 t
3位 神奈川県・・・・・・68 t
4位 岐阜県・・・・・・・58 t
5位 佐賀県・・・・・・・48 t
6位 長崎県・・・・・・・47 t
7位 愛知県・・・・・・・41 t
8位 兵庫県・・・・・・・40 t
9位 栃木県・・・・・・・38 t
10位 福岡県・・・・・・・35 t
思ったよりも「全国的」で、思ったよりも「少ない」と感じました。意外にも佐賀や福岡、長崎など九州がランクインしているのが驚きです。
モロヘイヤの栄養
モロヘイヤ(可食部100gあたり)
- エネルギー・・・・・・・・・・・・38 kcaL
- 水分・・・・・・・・・・・・・・・86.1 g
- カリウム・・・・・・・・・・・・・530 mg
- カルシウム・・・・・・・・・・・・260 mg
- マグネシウム・・・・・・・・・・・46 mg
- リン・・・・・・・・・・・・・・・110㎎
- 鉄・・・・・・・・・・・・・・・・1.0㎎
- マンガン・・・・・・・・・・・・・1.32 mg
- ビタミンA(β-カロテン当量)・・・10000 µg
- ビタミンK・・・・・・・・・・・・640 µg
- ビタミンB1・・・・・・・・・・・・0.18 mg
- ビタミンB2・・・・・・・・・・・・0.42 mg
- ビタミンC・・・・・・・・・・・・・65 mg
- 食物繊維総量・・・・・・・・・・・・5.9g
モロヘイヤは栄養価が高い!
モロヘイヤの栄養価は非常に高く、特にカルシウムはホレンソウの9倍、ブロッコリーの10倍も含んでおり、カロチンもホウレンソウの4.6倍、ブロッコリーの19倍量含まれています。さらに、ビタミンB群においてもビタミンB1、B2がそれぞれホレンソウの5倍弱、20倍にものぼりますのでいかに栄養価の高い野菜であるかが分かります。その他にもカリウム、ビタミンC、E、鉄なども豊富に含まれています。さらに葉を刻むと出る粘り成分は「ヤマノイモ」でもお話ししている多糖類やマンナンと呼ばれる成分です。
カルシウム、カロチン、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、ビタミンE、カリウム、多糖類はこれまで色々な野菜のお話しの中で何度も何度も繰り返し出てきた栄養素ばかりです。それぞれの成分がどのように作用するのかはこれまでの繰り返しになるので省略させていただきますが、骨粗しょう症、癌や老化の予防、元気回復、高血圧予防、胃粘膜保護、精力増強作用などなど多岐にわたりることはもはや言うまでもないことです。とにかくこのような色々な栄養素を含んでいる食べ物は、私たちが毎日の生活を豊かに前向きにエンジョイするための必須アイテムであることは明らかです。病気になってしまえばそれまでどんなに前向き生きていた人でもどうしても後ろ向きになってしまうものです。病気になったら『薬』、これはしょうがないことかもしれませんが、『薬』に頼らぬよう、毎日の食生活から元気の元を摂取することも、今一度考えてみる必要があるのではないかと思っています。
モロヘイヤの注目したい栄養素
腸活に食物繊維!
まずは、水溶性と不溶性、両方の食物繊維に注目。腸は、消化・吸収・排泄を行うだけでなく、体の免疫の7割が集中しており「第二の脳」として、幅広く体の機能をコントロールしています。食物繊維は、スムーズな排便を促して腸の働きを助けるだけでなく、腸内で重要な役割を担う腸内細菌のエサになり、腸内細菌を増やすのに役立っています。エネルギーを生み出すビタミンB群!
ビタミンB群はエネルギー生成をサポート。体の疲労回復にもなくてはならない栄養素。複数のビタミンBが一緒に働くことで、それぞれの働きの効果が上がります。ビタミンB群が不足して糖がエネルギーにならないと、脂肪に置き換わって体に蓄積されてしまいます。ダイエットにも必須の栄養素ですね。アンチエイジングに抗酸化ビタミン!
ビタミンAとビタミンC、ビタミンEを合わせて「ビタミンACE(エース)」などと言います。いずれも抗酸化作用が強く、活性酸素によるダメージから体を守ってくれます。肌を紫外線から守ってシミやシワを防いだり、細胞の老化によって起こる様々な病気のリスクを減らしてくれたりします。免疫力がアップするので、風邪予防にも欠かせません。骨や歯を作るだけではない、カルシウム!
筋肉を収縮させる。酵素を正常に働かせる。心筋の機能を正常に保つなど、カルシウムは骨や歯を作る以外にも多くの重要な役割をになっています。牛乳や乳製品だけに頼ると、血液が酸性に傾き、結果的に骨からカルシウムが溶け出して脆くなる危険性もあり、大豆製品や魚介類、モロヘイヤのような野菜など、いろいろな食品から摂ることが大切です。女性の味方、鉄分やカリウム!
月経や出産などで女性は鉄分が不足しがち。また、むくみも女性に多い悩みのひとつです。血液やリンパ液の流れが停滞しておこるむくみや、塩分の摂りすぎで体が濃度をさげようと水分を溜め込んでおこるむくみ。そんなむくみの解消には、水分を排出する作用を持つカリウムが有効です。赤血球を作ってくれる葉酸!
赤血球の生産を助けるだけでなく、たんぱく質の生合成にも関係する、体の発育に重要なビタミンです。妊婦が葉酸を十分に摂ると、胎児の「神経管閉鎖障害」のリスクが減るので、特に妊婦に不可欠な栄養素とされていますが、その他虚血性心疾患の予防効果なども期待され、研究が進んでいます。
★にょろにょろポイント★
モロヘイヤの毒性
モロヘイヤには毒性があるという話を紹介します↓
種子に強心作用のあるステロイド類のg-ストロファンチジンやオリトリサイドという強心配糖体、さらにサポニンを含むことが知られており、種子を摂食したウシやブタの死亡例が日本及びオーストラリアで報告されているが、これまでヒトにおける死亡事例の報告はない。この強心配糖体は収穫期の葉、茎、根の各部位と未熟種子には含まれず、また野菜として流通するモロヘイヤ、モロヘイヤ健康食品、モロヘイヤ茶などからも検出されなかったことから、通常の流通品については安全であることが確認されている。この強心配糖体は成熟中のかたい種子、成熟種子のさや、発芽からしばらくまでの若葉にも含まれるため、家庭菜園などで栽培する場合は注意が必要である。また、子供が種子を誤飲することもありうるため管理に気をつけるよう厚生省が注意喚起している。
普段「食べることのない」モロヘイヤの種子に毒性があるということなので、過度に心配する必要はありませんが、知っておくことは大事なので。
ということで、意外なストーリーがたくさんあった「モロヘイヤ」。旬の今、スーパーでモロヘイヤを見つけたら、ぜひお試しください。「体力回復」しちゃうかも、です。
ー 適 材 適 食 ーてきざいてきしょく
小園 亜由美 (こぞのあゆみ)
管理栄養士・野菜ソムリエ上級プロ・健康運動指導士・病態栄養専門管理栄養士・日本化粧品検定1級
*1:文中の表現は全ての人が対象ではない場合があります。現在治療中の方は必ず担当医や管理栄養士の指示に従ってください。食事療法は医療行為です。ひとりひとりの身体の状態に合わせた適切でオーダーメイドなカウンセリングが必要です。充分に注意してください。